外国語を学ぶのは、母語の檻から出るため

外国語を学ぶのは、母語の檻から出るため
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内田樹さんの新刊「知性について」という本が面白くて、

特に外国語を学ぶ意味について考えてみました。

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単語、文法、英作文、TOEIC勉強中心の日本

本屋さんには、英語の勉強の本がたくさんありますよね。

YouTubeでも「効率的に、英語を学ぶ方法」が溢れています。

企業の求人情報にも「TOEIC◯点以上」の条件が多いです。


学校の英語の勉強もそれと連動していて、

単語の暗記、文法や英作文など「読み書き」が中心です。

*English Grammar in useはお気に入りの教材


そのこと自体が悪とは思わないのですが、

どうもそれって「楽しさ」がないし、画一的な気がしてました。

そんなとき、内田さんの本を読んでいて「これが語学の学びの楽しさなのかも」と思ったのが次の文章です。

でも、どの言語を勉強したときも、自国語に存在しない概念、自国語に存在しない音韻に触れるというのは、ほんとうに感動的な経験でした。

「外国語を勉強する」ことの喜びというのはそこに尽くされると思います。「母語の檻」から外に出られるということです。

すごくはっとしました。

私達は語学を学ぶとき、日本語と外国語は1対1になっていると思い、「正しく訳す」ことを考えてしまうけど、実際はそうなってなくて、自国語に存在しない概念(文化や歴史)を見つける楽しさがそこにあるんだろうな、と思ったのです。

*2017年に行ったベルギー

村上春樹の小説「1Q84」のInsaneとLunatic

それを強く感じたのは、最近Audibleで聞いている村上春樹さんの長編小説「1Q84」です。

この小説の登場人物の女性が、学生時代に習った英語で

insane」と「lunatic

の違いをおもむろに話し出すんですよね。


いずれも、「正気でない」「狂っている」という意味で使われるのですが、

Insane…生まれつきの精神的な問題で、専門的な治療が必要な状態。

lunatic…ラテン語のluna(月)に由来。月の影響で一時的に正気を失った状態。

といった差があります。

小説では、「19世紀のイギリスでは、犯罪を犯した者が『lunatic』と認定されると、その罪の重さが軽減されることがあった。つまり、月が人を狂わす、ということが法律で認められていた」と語られていました。

実際、この小説では登場人物の二人が同時に「月が2つある世界」に放り込まれる話で、「狂気」がひとつのテーマになっています。


でも、私はびっくりでした。「月が人を狂わす」ことが法律で公式に認められていたなんて。日本をはじめ、東洋では「月が人を狂わす」という思想は私が知る限りないと思います。

これが、「自国語に存在しない概念(月が人を狂わす)」を見つけることなんだと。単語を暗記するだけではこういうこと絶対学べませんよね(実際、この2つの単語はすぐに覚えてしまいました。多分使わないけど)。

他の国の言語を知れば、日本のことがわかる

古代ローマ帝国の公用語である「ラテン語」も、多くのことばの語源になっていることがわかって面白いです。「世界はラテン語でできている」という本ではそれがわかりやすく解説されていました。(ラテン語といえば、「テルマエ・ロマエ」という映画で注目されましたね)

世界はラテン語でできている (SB新書 641) | ラテン語さん |本 | 通販 | Amazon

コンセプト、アルバム、データ、メディア、アジェンダ…こういったカタカナ語は全部ラテン語が起源です。

私は大学時代にフランス語が第2言語でしたが、「男性名詞」「女性名詞」があるのを知るだけで「ええー!」と感嘆したものです。

あと良く言われるのは日本はひとつの概念にいろんな呼び方があって(例えば「妻」ひとつとっても、配偶者、奥さん、家内、女房、伴侶…などなど)、これは「関係性」を大事にする日本の文化が反映されているからなのかもしれません。

そして母語は毎日のように使っているから、「言語が文化を、習慣を、思考を作る」。知らず知らずのうちに、「母語の檻」に閉じ込められているのだなと(日本の中でも、地域の方言でもだいぶ文化が違う気がします)。母語以外の外国語を学ぶのは、そういった凝り固まった檻から出るためでもあるんですよね。


語学に限らず、「学び」というのは本来こういうもの(凝り固まった檻から出ること)なのかもしれません。

自分たちを知るには、外を知ることが一番で、そのためにはその枠の外に出ていくことが必要なんだろうなあと。(海外行ったあといつも「日本の良さ」を知るみたいに)

外国語の勉強は、その良いとっかかりになると考えています。

少なくとも、TOEICや就職に有利、といった理由だけで学ぶのはもったいないかなと思っています。(といいつつ海外に行くといつも自分の語学力の低さに打ちのめされるのですが…)

まとめ

内田樹さんの本をきっかけに、語学を学ぶ意味を考えてみました。

母語の檻を出るために言葉の語源や文化を探っていくのは

就職や資格には役立たないかもしれないけど、

確実に思考の幅を広げてくれる学びだと思っています。

編集後記

3ヶ月に1度クリーニングと検診のために行っている歯医者ですが、久しぶりにホワイトニングをしました。

10年以上前に一度したときはちょっとしみたのですが、今回は全然しみず、痛くもなく。

歯がワントーン明るくなると心も明るくなる気がします^^

最近のあたらしいこと

コードレスヒートブラシ

神奈川県立近代美術館 鎌倉別館 「木茂(もくも)先生の挿絵考」展