税理士という仕事柄、数字を使う場面が多くきちんとした数字が基になっていない話には敏感です。

先日、電話でWebマーケティング会社の営業の方が

「ここ最近、Webで活動している人って増えてるじゃないですか?」

と切り出してきたので、思わず

「そうなんですか?」

と聞き返してしまいました。

ここ最近というのはいつからいつまでのことなのか、Webで活動している人というのはどんな人なのか、増えてるというのはどのくらい増えているのかが全く分からなかったからです。

全く数字が根拠になっていない話も気になりますが、一方で

「顧客満足度○○%!」

「国民一人あたりの借金は○○円」

などの「あたかも正しそうな数字を使った情報」というのにも気をつけています。

往々にしてこういった情報は「そう言い切ってしまっていいの?」といった事実が隠されています。

数字はただ与えられたものをそのまま受け取るのではなく、「使いこなす」ことが大事だと感じていました。

そこで、今回読んだ本がこちら。数字を正しく使いこなせばもっと人は幸せになれる、そんな想いがこめられており、苦手な方でも読みやすく、興味が持てる内容になっています。

なお題名に「数学」と使われていますが、難しい数式はでてきません。(√計算、指数関数などは出てきます)

 

 

統計数値の前に言葉の定義

新聞などのメディアでは毎日のように様々な統計数値が使われていますが、その前に「言葉の定義」をはっきりさせることが大事だと著者は書いています。

私が冒頭で書いた営業の方から言われた

「ここ最近、Webで活動している人って増えてるじゃないですか?」

という発言にも言えます。まず「Webで活動している人」を定義しなければその後の話に意味がありません。

この本では新聞で使われる「企業の寿命」という言葉を例に挙げています。

「企業」といっても日本にあるすべての会社を言うのか、一部の会社を言うのかで違ってきます。

「寿命」という言葉も何をもって企業の寿命と言っているのか(企業が本当に活動できなくなったことか、第一線で活躍できなくなったことを言うのか)が曖昧です。

使われている言葉の定義を理解しなければ、その後の数値の捉え方が全く違ってきてしまいます。

誰かと数値を議論するときも、まずは言葉の定義から。基本的なことをこの本では教えてくれます。

思い込みが数値の活用を妨げる

著者はこの本で「一つの数値ですべてが分かることはありえない」と書いています。

代表的なものとして、「GDPが高い=経済が良くなっている」という思い込みが挙げられています。

GDPが「国内総生産」の略だということを知っていても、その数値の意味をきちんと考えているかというと、意外と抜け落ちている場合も多いと思います(私自身もきちんと理解していませんでした)。

GDPはあくまで国内で生み出された付加価値の合計であることを丁寧に理解すると、

生み出されたものがきちんと国民の間に行き渡っていかなければ意味がないということも同時に理解できます。

もう一つ、企業の利益は多ければ多いほど良いという思い込みに対する疑問も紹介されています。

これは常々私自身も感じていたことですが、利益というのは多ければ多いほど良いものではなく、その企業・個人にとってちょうどよい利益(この本では「適正利益」と書かれています)があるはずです。

株主の期待にこたえ、その企業で働いている従業員の生活を幸せにし、かつ未来への投資に回すことのできる適正利益が。

大企業の内部留保(稼いだ利益の蓄積)が増えている、とニュースで見かけますが、株主から出資されたお金を使って、従業員が頑張って稼いだ利益であるにもかかわらず両者に還元していないということです。

四半期決算などの報告で見かける「増収増益=良い」「減収減益=悪い」というイメージがありますがその裏側を探る行為は必要でしょう。

身体で覚える数値感覚

面白いと思ったのが最終章で紹介されている人の暮らしに寄り添う数学です。

江戸時代の教育システムがよくできていたこと(寺子屋)、帳簿づけ(簿記)の大切さが書かれています。

人の生活を幸せにする、生きた数学を学ぶための現代へのヒントが書かれています。

二宮金次郎は「勤勉な人」というイメージしかなかったのですが、見る目が変わりました(詳しくは本書で)。

数字は人を幸せにするためにあり、

実際に行動し、「身体で覚えていく」ことが大切ということが分かりました。

まとめ

柳谷晃さん著『面白くて仕事に役立つ数学』を紹介しました。

日本の学校は「理系」「文系」と分かれてしまうので文系に進んだ人からしたら「数学」と聞くだけで敬遠しがちなので、こういった初心者本はありがたいです。

数字の不思議、「パレートの法則」「心落ち着く図形」「六曜」など雑学的なことも興味深かったです。

編集後記

昨日は、税務雑誌の出版社の方と打ち合わせ。面白い企画になりそうです。

夜は知人が出版祝いを横浜でしてくれました。隠れ家的な和食やさんで美味しかったです。

Today’s New

横浜の隠れ家的な和食屋さん

« »