[お勧め本]「誰がアパレルを殺すのか」杉原淳一・染原睦美著
11/62017
カテゴリー:本
社会派ブロガー・ちきりんさんもお勧めの「誰がアパレルを殺すのか」という本を読みました。
アパレル業界の不振の原因を、これまでの歴史から分析し、その中でも業績を伸ばしている新興勢力を紹介している本です。
この本に書かれていることは、すべての業界にも共通して言えることではないかと思いました。
今後のことを考えていく上で参考になったので紹介します。
なぜ服を買わなくなったのだろう?
私がこの本に興味を持ったのは私自身服をここ数年買うことが極端に少なくなったからです。
現在「airCloset」というファッションレンタルサービス(この本にも紹介されています)を利用しており、それ以外は必要に応じて買い足す、程度です。
なぜ服を買わなくなったか、今まで曖昧だったのがこの本を読んで明らかにすることができました。
似たようなデザイン
百貨店やショッピングセンターに行くと、ものすごいブランドの量に圧倒されます。
以前は、好きなブランドはあったのですが気がつけば似たようなブランドが乱立している状態に。
お気に入りのブランドのお店で買っても、似たデザインの服が隣で安く売られていたりなんてしょっちゅうです。
そうなるとどこで買っていいのか、そもそも違いは何なのか、選ぶ基準が分からなくなります。
こういったブランドの乱立の原因はアパレルメーカーが商品の企画を商社やOEM(他社ブランドの製品を製造する企業)に依存していることにある、とこの本では書かれています。
大手アパレルメーカーが追い求めた大量生産、大量供給の結果、似たようなブランドが乱立し、顧客離れが深刻化したと分析しています。
均一な接客
店舗で買わなくなったもう一つの理由として、どこに行っても変わらない均一な接客があります。
特に百貨店のお店に入店されるとすぐに話しかけられるのは本当に嫌です・・
しかも内容はほとんどどこも変わらず。
その原因をこの本で垣間見ました。
百貨店やSCで売られている商品は、売れ残った場合アパレルメーカーが引き取る「消化仕入れ」が採用されていると書かれています。
となると、売れ残りの在庫は百貨店やSCは「ノーリスク」となるので、どうしても「売ろう」という想いが弱まってしまうのではないかと。
逆に個人で開いているお店だと、売っている人の想いが商品に込められている場合が多いです。どこで生産され、誰が作って、どこにこだわった、など。
販売員はただ「モノ」だけではなく生産過程を知った上でストーリーも売らなければ今後売れないのではないかと思います。
セールによる値崩れへの疑問
年末などに開催されるセール。
人混みが嫌というのもありますが、10数年行っていません。
「値下げ」は顧客から喜ばれるものと思いがちですが、私の場合不信感が出てきます。
本当に適正価格で売っていたのかな?と・・。
この本ではアパレル業界にはびこる製造コストを下げるために中国に依存し、売り場に商品をばらまく大量生産、大量供給の問題を指摘しています。
また、アパレル業界は糸・生地メーカー、縫製業者→商社・OEMメーカー、アパレル企業・卸売業者→百貨店・SCなどの小売業者→消費者と中間業者が多く、そこから発生する様々なコストが価格に含まれているとも。
先程の「消化仕入れ」を見込んだ在庫リスクも価格に含まれているはずです。
そうなると、ますます「商品そのものの価値」が分からなくなり購買意欲もなくなってきます。
顧客のニーズが置き去りにされたビジネスモデル
高度経済成長の時代では作れば作るほど売れたので、大量生産・大量供給は時代と合っていたのでしょう。
しかし時代が変わっても過去のやり方にこだわっていたら顧客のニーズとかけ離れたものになってしまいます。
その顧客心理の現れが近年成長している「シェアリングエコノミー」ではないでしょうか。
自動車配車アプリの「Uber」、宿泊施設・民宿を貸し出す人向けのサイト「Airbnb」。
「メルカリ」などのフリマアプリもそうですね。
いずれもモノ自体にこだわらない顧客の心理を表していると思います。
先程私が利用しているというファッションレンタルサービス「airCloset」も同じで、顧客の興味が「モノ」から「体験」に移っていることが分かります。
このような顧客のニーズが変わる中で、売り場にズラッと似たような商品を並べたところで売れないのは明らかです。
透明性がないサービスは受け入れられない
この本には大量生産・大量供給のアンチテーゼとして「透明性」を重視する企業が紹介されていました。
ニューヨークを拠点とするアパレル企業は、生産過程(コスト、マージン)をすべて開示していると書かれています。
数値だけでなく、商品が製造される工場の様子もサイトで紹介されているのが驚きです。
普通のアパレル企業からしてみたらなるべく出したくない情報ですよね。
これを読んで思い出したのが生命保険料の内訳を開示した日本のライフネット生命です。
今まで隠れていた生命保険会社の実情が明らかになり生命保険に対する考え方が変わった方も多いのではないでしょうか。
企業側の都合で積み上がったコストが含まれていることを知った消費者は、「ただ安い」というだけでは買わなくなってきています。
いかに企業側が透明性を持って、情報を開示するかが今後大事になるでしょう。
まとめ
「誰がアパレルを殺すのか」を読んでみた感想をまとめました。
アパレル業界の不振を尻目に活躍する新興勢力のやり方も考え抜かれていて興味深いです。
既存のやり方にこだわって顧客のニーズが置き去りにされる、ということはどの業界にも共通して起こることではないかとこの本を読んで思いました。
アパレル業界の方以外でも、読んでいて様々な教訓を得られるはずです。
編集後記
週末は美術展に行ったりとのんびり過ごしました。
横浜トリエンナーレは横浜美術館、赤レンガ倉庫、横浜開港記念会館、黄金町、馬車道のbanKART Studioすべて網羅できました。
普段接することのできないアートに触れることができて、心が洗われました^^。