[お勧め本]あれか、これか 「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門 野口真人著
7/42016
ファイナンスの入門書を読んでみました。
著者である野口真人さんは企業価値評価で有名なプルータス・コンサルティングの代表取締役社長です。
ファイナンスというと、難しい数式が並びとっつきにくいイメージがありますが、この本は「入門」と書かれているように初心者でも分かりやすい内容となっています。
現金は「最も価値の低い資産」の1つ
ファイナンスの世界では、現金はもっとも価値の低い資産の1つだ
―この本の冒頭にこう書かれています。
せっせとタンス預金や金利のほとんどつかない定期預金に預け入れている人にとっては「現金は最も価値の低い資産だ」と言われることには抵抗があるかもしれません。
何かの価値を判定する場合、私たちはまず「値段」を意識するのではないででしょうか。
しかしファイナンスの世界では、
モノの価値はそれが生み出す将来のキャッシュフローの総和で決まる。
とされています。
つまり、現金を1,000万円持っている人と、毎年賃貸収入が得られる物件1,000万円を持っている人とでは後者の方がファイナンス上「価値がある」とみなされます。
リスクは危険性ではなく不確実性
私たちが日常的に使う「リスク」という言葉は「危険」と解釈される場合が多いのではないでしょうか。
しかし、ファイナンスの世界ではリスクとは危険そのものではなく、「不確実性」(どっちに転ぶか分からない度合)を言います。
従って、良い結果・悪い結果両方を「リスク」と表現します。
著者は、
予想よりもいいことが起きる可能性、すなわちアップサイド・リスクこそがファイナンスの真骨頂なのだ。
と言っています。
面白いのは、アップサイド・リスクはFXや株式投資など誰もが思いつく投資に限らず、私たちの人生における選択においてもついて回るという考え方です。
「現状維持や、何もしないことこそがリスクだ」というのはこのような事をいうのではないでしょうか。
何もしなければ、アップもダウンもしない。そう考えたいところですが実質的にダウンしているのかもしれません。安定した職を得てそのまま一生安泰でいよう・・と思って何もしなければいざ環境の変化が起きたときには既にどこへも行けない状態になってしまっているかもしれません。
無借金経営はすばらしい?
著者は
資産購入のための資金調達方法と、その資産の価値は無関係である。
というMM理論を紹介しています。
この理論によれば、借りたきたお金であろうと、株主からの出資金であろうと、翻って盗んできたお金であろうとその企業の持つ資産価値は変わらないことになります。
MM理論が出てくる前までは、企業価値はバランスシートの右側の負債の価値と株主資本の価値を足したものと考えられていました。(今の「会計」的な考え方はこちらです)
このように見ていくとファイナンスはいかに「資産と、その資産が生み出すキャッシュフロー」を重視しているかが分かります。我々税理士の専門分野である会計とは全く違う考え方です。
ファイナンス的には、「無借金経営はすばらしい」とは一概には言えず、あくまで調達した資産がどれくらいのキャッシュを生み出すことができるかということを重視します。
税理士にとってのファイナンスとは?
我々税理士は「会計」分野の専門家ですが、真逆のファイナンスを同時に学ぶことによってお客様により良いサービスを行うことができるのではないかと思っています。
例えば、所得が発生した場合に「今期の節税になる」ということで中古車を期末に買うとします。
確かに減価償却費も定期的に発生して短期的には節税になるでしょう。
しかし、その「中古車が生み出す価値は?」と考えたときに他に選択肢もあるのではないかということになります。
そもそも目的の第一が節税であったとしたらその中古車を事業に役立てるという発想はあまりないかもしれません。
そうであればたとえ節税にならないとしてももう少し本業の収益に貢献するための支出(優秀な人材を雇う等)という選択もあるのではないでしょうか。
正に「あれか、これか」という考え方ですね。
税理士は「税金を安くするのが仕事」ということにこだわっているとなかなかでてこない発想もあるのでは、と思います。
まとめ
ファイナンスは、会計的には見えない価値(バランスシートには載らない価値)を重視します。
そして、その価値は「将来その資産が生み出すキャッシュフローの総和」であらわされます。
特に、企業では「ヒト」の部分が大きいでしょう。
なんにでも「価値」をつけるというファイナンスの考え方は、個人的には好きです。
大学などで履修したファイナンスの授業で数式ばかり見てうんざりされた方に、この本はお勧めです!
編集後記
今日は、思い立って公園ランチ。
暑すぎて誰もいない・・。
公園ランチは9月頃までおあずけですかね^^;;