【お勧め本】『柳宗理 エッセイ』美は生まれるもので、作り出すものではない
1/112019
カテゴリー:本
30代の途中までは、「自分はどんなモノ(デザイン)が好きなのか」といったことは意識せずに過ごしていました。
そのときだけの流行ものをつい買ってしまったり、装飾過剰で趣味の悪いものを買ってしまったり。
しかし30代後半くらいから、
「このまま見た目が醜いものばかりに囲まれて暮らしていきたいのだろうか?」
とモノの多さと、いかにも商用主義的なモノに対して疑問を感じるようになりました。
そこで気になったのがアノニマスデザイン(無名のデザイン。生活の中から生まれた、デザイナーが関わっていないデザイン)の提唱者であるインダストリアルデザイナーの柳宗理さんです。
2011年にお亡くなりになられていますが、日本を代表するデザイナーさんです。
あくまで「人の用途」のためのデザイン、といった点が現代のゴテゴテしたものと違って潔くて好きです。
↓Googleで検索した結果。キッチンツールを主に、生活に密着した素敵なものづくりをされています。
(貧乏性なので、今使っているツールを「まだ使える」と思って1つも買っておりませんが・・)
そんな中とある雑誌のお勧め本として見つけた『柳宗理 エッセイ』を今回読んでみました。
柳宗理さんのデザインに対する考え方がぎゅっと詰まっている本です。
デザインの至上目的は「人が生活する」為
柳宗理さんのデザイン思考は一貫していて、
「デザインは、人が生活の用に供するため、つまり『機能』から生まれるべき」
という考えを持たれています。
「本当の美は生まれるもので、作り出すものではない」、ともおっしゃられています。
確かに柳宗理さんが作られたツールはすべてが素っ気ないくらいシンプルです。
余計な装飾が全くありません。
そして、その極限までのシンプルさが美しいなと思います。
それはやはり「人が生活に使う」ことに最大限こだわった作りだからだと思います。
「道具」ってそもそもはそこが一番大事ですよね。つい忘れがちですが。
私も「この用途だけ」というシンプルな道具(裁縫だったら指貫とか)が好きです。
複数の用途がゴテゴテついている道具はなんか中途半端で好きじゃありません。(日本の家電とか。。)
デザイナーは紙の上で設計するだけでなくワークショップで手を動かせ、とおっしゃられているのも分かります。
ともすればデザイナーが自己満足や商用主義に陥りがちな点を厳しく戒めています。
柳宗理さんがデザインした歩道橋を見てきた
柳宗理さんは高速道路や歩道橋もデザインされています。
歩道橋については、建設費が役所によって極端に制限されているため日本に建てられている多くのものは安っぽく、街の景観を汚すものと書かれています。
そんな中で柳宗理さんがデザインされた歩道橋が横浜・野毛山動物園前にあると書かれており(近所で、子供が小さいときに私もよく行った)、灯台下暗し!ということであらためて見に行ってきました。
あらためてその歩道橋(「野毛のつり橋」と呼ばれているそうです)を眺め。
「こんな素敵な歩道橋が身近にあったなんて!」
と感動しました。
形状が少しアーチになっていて、階段も螺旋状になっていて全体的に柔らかい雰囲気です。
歩道橋と言うと、橋の上をそそくさと通り過ぎる人が多いイメージですが、
こちらの歩道橋をはジョギングをしている学生さんがいたり、橋の上から景色を眺めている方や談笑されている方がいたり。
「生活に溶け込んだ」歩道橋という印象でとても素敵でした。
(「動物園前」といった場所もあると思いますが。)
「商用主義に汚されたデザイン」に真っ向から立ち向かう柳宗理さんの考え方が伝わってきました。
まとめ
柳宗理さんの『柳宗理 エッセイ』を紹介しました。
デザインに関しては「好き・嫌い」はあると思いますが、その「好き・嫌い」すらわからなくなるほどモノが溢れかえっていると思います。
「本当はどんなものが好きなんだっけ」と分からなくなったら、一度持っているものをすべてリセットして、
「自分の生活に本当に必要か」「自分にとって心地良いものなのか」を基準に考えると自分の本当の「好きなデザイン」が見えてくるかもしれません。
本書にはたくさんの製品が登場するのですが、どれもシンプルで美しくて、うっとりします。
編集後記
昨日は、見た目が美しくない某地方税システムと格闘し。
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「野毛のつり橋」を見に行く